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HATコラム

兵庫県南部地震・熊本地震から改めて学ぶ建築物の耐震性

阪神・淡路震災記念 人と防災未来センター上級研究員員 福和 伸夫

福和 伸夫
阪神・淡路震災記念 人と防災未来センター上級研究員


1957年生まれ
名古屋大学大学院工学研究科建築学専攻博士課程前期課程修了
名古屋大学減災連携研究センター長・教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構
阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター上級研究員

兵庫県南部地震と熊本地震の共通点の多さ
兵庫県南部地震から22年を迎え、震災の年に生まれた子どもが大学を卒業する年になった。この間、地震被害軽減のためにさまざまな努力が積み重ねられてきた。しかし、昨年、熊本地震が発生し、4月14日、16日の2度の震度7の揺れにより、多くの家屋が倒壊し多数の犠牲者が出た。熊本での被害地震は、1889年の明治時代以来である。
 今回の地震の本震のマグニチュードは7.3、多くの人が就寝中で、倒壊した家屋の特徴や犠牲になった方の年齢層、市民病院や市役所などの重要施設の損壊、列車の脱線や高速道路の途絶、大規模な土砂災害など、兵庫県南部地震といずれも共通する。

神戸と比べて少なかった熊本の直接死
熊本地震による直接死は50人で、兵庫県南部地震の約5,500人の110分の1である。これまでの地震対策の成果だと言いたいが、他の要因が大きいようだ。
一般に、震度7の揺れになると家屋倒壊が顕著になる。熊本地震で震度7の揺れを記録した益城町と西原村の人口は約4万人、一方で、神戸市の東灘区・灘区・中央区・長田区を合わせると60万人になる。全壊家屋数が、兵庫県南部地震10万棟強に対し8,000棟強だったこととも符合する。
全壊家屋数当たりの犠牲者の数は兵庫県南部地震の10分の1程度である。本震前に地震が続発したため、全壊家屋の住民の多くが避難所や車中に宿泊していた。益城町の犠牲者は、本震の方がはるかに多くの家屋が損壊したが、前震が7人、本震が12人だった。すなわち、揺れの強さに比べて直接死が比較的少なかった要因は、震度7暴露人口の少なさと連続地震による避難にあったと思われる。
それでは、耐震対策の成果はどうだったのだろうか。住宅の供用年数を50年と仮定し、1981年に新耐震設計法が導入されたことを考えると、兵庫県南部地震の時には新耐震以前の家屋は約7割、熊本地震の時は約3割となる。耐震的に問題が残る家屋が半減したことで、減災効果は2分の1程度だったと思われる。ただし、震度7に2度見舞われたことによる損傷の拡大効果で相殺した可能性もある。
すなわち、熊本地震での被害から言えることは、人口集中が著しい大都市を前触れなく直下地震が襲えば、今なお甚大な被害が予想されるということである。

2度の震度7でも6割が無被害だった最近の住宅の耐震性
国土交通省国土技術政策総合研究所と国立研究開発法人建築研究所が益城町の激甚被災地で行った家屋被害調査によると、1981年5月より前の家屋の無被害率は5.3%、81年~2000年は20.3%、00年以降は61.3%となっている。震度6弱~強だった熊本市内のマンションの約9割に何らかの被害があったのに比べ、震度7の揺れを2度も受けたのに構造的に無被害の住宅が6割もあるというのはすごいことである。
一般には知られていないが、戸建木造住宅では構造計算が義務づけられていない。その代わり、過去の震災経験に基づいて、住宅面積に応じた壁量確保が規定されている。この壁量規定は1981年に強化され、さらに2000年に金物補強や壁のバランスなどの規定が追加された。このため、81年と00年で耐震的に差がある。戸建住宅の耐震性能には幅があるため、この壁量は相当に余裕をもった値となっており、平均的な戸建て住宅の耐震性は極めて高い。震度7を2度受けても無被害の住宅が6割も存在したゆえんと思われる。

業務継続できなかった防災拠点
熊本地震では、損壊した宇土市役所をはじめ、6つの基礎自治体で庁舎機能を維持できなかった。庁舎を失うと、災害後対応は困難を極める。熊本市民病院をはじめ診療を維持できなかった病院も多い。神戸市役所や神戸市立西市民病院を思い出す。これらの建物の外観を無被害だった西原村役場と比べると、柱と窓が目立ち、壁が少ないことに気付く。
建築物の構造設計の考え方には、強い揺れに対し、無被害にする強度型の設計と、損傷は許容するが大きな変形能で倒壊させず人命を守るという靱性型の設計がある。当然だが後者では業務継続は難しい。通常の構造計算法を用いた場合には、壁の多い低層の強度型の建物と靱性型の建物とでは、余力に大きな差があることも重要な点である。
また、地域によって耐震性能を低減する地震地域係数は、頻度高く発生する海溝型地震を想定しており、強い揺れとなる活断層集中地域では低減率が大きい。例えば宇土市では2割地震力を小さくできる。さらに、本来は地盤の硬軟によって地震動の強さは異なるが、最低基準である現行の耐震基準では、地盤条件による地震荷重の差は基本的にない。
重要防災拠点の耐震設計のあり方について、いま一度考え直すべき時ではないだろうか。

非構造部材や設備の損傷にも要注意
構造的には大丈夫でも、天井や非構造部材、クレーン、設備などの落下・損傷によって使えなくなった避難所や生産施設が多くあった。生活や業務の維持のためには、建物の構造だけでなく、さまざまな耐震対策が必要になる。改めて周辺の点検を進めたい。